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2020-11-15 不動産の評価 評価通達6の「特別の事情」

2020-11-15 不動産の評価 評価通達6の「特別の事情」

2020年〔令和2年) 11月1日 東京税理士会 Vol.766
不動産の評価/特別の事情の有無
節税目的の不動産取得に評価通達6を適用


はじめに

相続財産の評価は、特別の定めのある場合を除き、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)に定める方式によるのが原則ですが、評価通達によらないことが相当と認められるような特別の事情がある場合は、他の合理的な時価の評価方式によることが許されていると解され、評価通達6では、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価すると定められています。

今回は、投資用不動産(マンション)の価額について、評価通達6が適用され、鑑定評価額及び購入価額で評価された事例をご紹介します。

I 鑑定評価額

令元8.27東京地裁
(棄却) (控訴)Z888-2271

〈事案の慨要〉

平成24年B月17日に94歳で死亡した被相続人は、相続開始の約3年半前に、甲不動産を8憶3700万円(銀行借入金6{意3000万円、相続人らが連帯保証)で購入し、相続開始の約2年半前に、乙不動産を5億5000円(銀行借入金3億7800万円、 妻からの借入金4700万円、銀行借入金には相続人らが連情保証)で購入しました。

この事案は、原告らが、評価通達の定める評価方法により、甲不動産の価額を2億4万円余、.乙不動産の価額を1億3366万円余と評価して相続税の申告をしたところ、処分行改庁から、各不動産の価額につき評価通達の定めにより評価することが著しく不適当と認められるとして、各鑑定評価により、甲不動産の価額を7億5400万円、乙不動産の価額を5億1900万円と評価し、更正処分等を受けたためその取消しを求めるものです。なお、原告Eは、相続開始の約9か月後、乙不動産を5憶1500万円で売却しました。

く裁判所の判断〉

裁判所では、次のとおり判断し、各不動産の相続税法22条に規定する時価は、各鑑定評価額であるとしました。

1 評価通達の定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することができないなど、評価通達の定める評価方法を形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いるという形式的な平等を貫くととによって、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかである特別の事情(評価通達6参照)がある場合には、他の合理的な方法によって評価することが許されるものと解すべきである。

2 各通達評価額は.それぞれ、各鑑定評価額の約4分の1(甲不動産は約26.53%、乙不動産は約25.75%)の額にとどまっている。そして、実際に被相続人叉は原告Eが各不動産を売買した際の価格をみると、各通達評価額からのかい離の程度は、各鑑定評価額よりも更に大きいもの又は同程度であった。

3 これらに加え、①被相続人又は原告Eの各不動産の売買につき、市場価格と比較して特別に高額又は低額な価格で売買が行われた旨をうかがわせる事情等が見当たらないことや、②各鑑定評価は、いすれも、原価法による積算価格を参考にとどめ、収益還元法による収益価格を標準に鑑定評価額を求めたものであることなどをも勘案すれば、各通達評価額が相続開始時における各不動産の客観的な交換価値を示していること(相続開始時における各不動産の客観的な交換価値を算定するにつき、評価通達の定める評価方法が合理性を有すること)については、相応の疑義があるといわざるを得ない。

4 M銀行からの各借入れ及び各不動産の購入がなければ、本件相続に係る課税価格は、6億円を超えるものであったにもかかわらす、各借入れ及び各不動産の購入がされたことにより、相続税の申告による課税価格は、2826万1000円にとどまるものとされ、基礎控除(1億円)により、相続税は課されないこととされたものである。

5 上記の経緯等に加え、M銀行が各借入れに係る貸出しに際し作成した各貸出稟議書の記載や証拠にもよれば、被相続人及び原告らは、各不動産の購入及び各借入れを、相続税対策として実行したことが認められる。

6 各不動産の購入及び各借入れに相当する行為を行わなかった他の納税者との聞で、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかというべきであり、評価通達の定める評価方法以外の評価方法によって評価することが許されるというべきである。

II購入価額

平4.3.11東京地裁 (棄却) Z 1随一日866
平成5.1.26東京高裁 (棄却) Z194-7061
平成5.10.2日最高裁 (棄却) Z 199ー7217

〈事案の慨婆〉

原告(控訴人、上告人)らの父親(昭和62年12月19日死亡、95歳)は、相続開始の約2か月前に、借入金でマンシヨン(居宅11戸)を7億5850万円で購入しました。相続開始後原告らは、そのマンションを7億7400万円で売却し借入金を返済しました。この事案では、マンシヨンの価額は、通達評価額1億3170万円余か、購入価額7億5850万円かが争われました。

く裁判所の判断〉

裁判所では、次のとおり判断し、マンションの価額を購入価額で評価した被告の判断を適法なものとしました。

1 本件のように、被相続人が相続開始直前に借り入れた資金で不動産を購入し、相続開始直後に不動産が相続人によってはやり当時の市場価格で他に売却され、その売却金によって借入金が返済されているため、相続の前後を通じて事柄の実質をみると当該不動産がいわば種の商品のような形で一時的に相続人及び被相続人の所有に帰属することとなったに過ぎないとも考えられるような場合についても、画一的に評価通達に基づいてその不動産の価額を評価すべきものとすると、他方でそのような取引の経過から客観的に明らかになっているその不動産の市場における現実の交換価格によってその価額を評価した場合に比べて相続税の課税価格に著しい差を生じ、実質的な租税負担の公平という観点からして看過し難い事態を招来することとなる場合があるものというべきである。

2 そのような場合には、評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情がある場合に該当するものとして、相続不動産を市場における現実の交換価格によって評価することが許されるとするのが相当である。

おわりに
令和元年8月27日東京地裁の判断は、控訴審(令和2年6月24日東京高裁)でも維持され、現在、上告中です。
ご紹介した判決のほかにも、評価通達6の適用を巡り、「特別の事情」の有無について争われた類似の判決裁決が、TAINSに収録されています。

なお、 TAINSで. 判決裁決を検索する場合の「検索ワード」は、「著しく不適当」「特別の事情」「評基通6」などです。


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