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JUSTAX232

税理士損害賠償請求事件/海外財産を除外した相続税申告

この記事は、2012年11月の東京税理士会データ通信協同組合情報事業資料です。2013年3月の続報で、3割の過失相殺を認める控訴審判決が出たことが報じられています。

遺族にも降りかかる専門家責任

税理士に対する損害賠償請求事件が多発していることに伴い、税理士の側の無防備な現実が指摘されています。今回紹介する事件は税理士に対する専門家資任の追及のみならず、税理士が亡くなられた後もその遺族が負わなければならなかったその責任の重さです(平成例年1月30日東京地裁判決 控訴)(一部認容、一部棄却、TAlNSコード 2999・0131)。

事案の概要

この事件は、税理士である亡被告丁に相続税の申告手続を委任した原告甲らが、この契約に基づいて丁税理士が行った相続税の申告手続に相続財産の申告漏れ等の不備があったため、修正申告、重加算税の納付を余儀なくされたと主張して、亡丁税理士の相続人である被告らに対し、債務不履行に基づく損害賠償として、甲らが実際に納付した相続税の本税、重加算税、過少申告加算税及び延滞税の合計額から、本来納付すべきであった相続税額を陸除した金額と甲らが既に亡丁税理士に支払った報酬相当額との合計額1億2000万円を組える金額並びに遅延損害金の支払を求めたという事案です。

裁判所の判断

東京地裁は、次のように判断して、甲らの請求のうち、1億600万円余を認容しました。
(1) 税理士は、税務に関する専門家として、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命としているから、税務申告の委任を受けたときは、委任契約に基づく善管注意義務として委任の趣旨に従い、税務申告が適正に行ねれるよう、専門家として高度の注意をもって委任事務を処理する義務を負うものと解される。

(2 ) したがって、税務申告の委任を受けた税理士は、委任者から提供された資料が不十分であったり、委任者の指示説明が不適切であるために、これに依拠して申告書を作成すると適正な税務申告がされないおそれがあるときは、委任者に対して追加の資料提供や調査を指示し、不十分な点や不適切な点を是正した上で税務申告を行う義務を負うものというべきである。

(3 ) 亡丁税理士は、申らの相続税の申告に際して、原告らに対して、海外財産に関する資料の提出を求めるとともに、そのような資料が手元に存在しないのであれば、海外財産の存否を調査するよう指示すべきであったのに、これらの措置を何ら執ることなく甲から交付を受けた国内資産に関する資料のみに依拠して申告書を作成し、申告しているのであり、このような行為は、税務の専門家として適正に相続税の申告をすべき注意義務に違反したものであるといわざるを得ない。

(4) 丙社の発行済妹式総数9万株のうち6万4905株は同社の法人税申告書別表二において被相続人の持株とされていたものの、それ以外の2万5095株の帰属は原告らに尋ねても不明な状態にあったのであるから、亡了税理士としては、適正な税務申告を行う観点から、この2万5095株が相続財産である可能性をも考慮して、その帰属について関係者の認識を確認するなどして、可能な限りの調査を行い、相続税を申告すべきであったのに、亡了税理士は相続人らからの事情聴取以外に特段の調査をしていないにもかかわらず、2万5095株は甲らに帰属するものと即断し、作成権限もないのに、これを裏付ける株主名簿まで作成した上で、これらの株式が相続財産でないことを前提として本件申告書を作成しているのであり、このような行為は、税務の専門家として適正に相続税の申告をすべき注意義務に違反したものであるといわざるを得ない。

(税法データベース編集室朝倉洋子)
JUSTAX第228号(平成24年II月10日号)/編集・発行東京税理士会データ通信協同組合・広報部


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続報

税理士に対する損害賠償諮求について、昨年11月のJU STAX232号でお知らせした事件の控訴審判決を紹介します。原審では、相続税の申告を委任された税理士が死亡した後に依頼者から提起された訴訟により、税理士の法定相続人は1億1837万円余という多額の損害賠償を言い渡されましたが、接訴審では、納税者側にも過失があったとして3害の過失相殺が認められ、確定しました(平成25年1月24日東京高裁判決) (原判決変更、一部認容、一部棄却、確定TAINSコードZ999-0134)。

事案の慨要

この事件は、納税者甲(被控訴人)が、亡丁税理士に対し、夫の死亡に伴う相続税申告を依頼したところ、海外資産を申告しなくてもよいなどと誤った指示を受け、また、亡き夫が経営していた会社の株主構成や持株数を正確に把握しないまま申告をしたため、国税局の税務調査により申告漏れを指摘されて、修正申告のやむなきに至り、重加算税、過少申告加算税及び延滞税を賦課されるなどして損害を被ったと主張して亡丁税理士の相続人らに対し、債務不履行又は委任解除に基づく損害賠償請求として、総額1億 2000万円余の支払を求めたという事案です。
原審は一部認容、一部棄却を言い渡したため、亡くなった税理士丁の相続人らが控訴し、3割の過失相殺が認められましたが、相続税申告の税理士報酬は370万円であったのに対し、高裁判決は、3割減とはいうものの、7400万円を超える金額で確定したという事案です。

裁判所の判断

東京高裁は、次のように判断して、依頼者である被控訴人側にも3割の過失があったと認め、7400万円余の損害賠償を言い渡しました。
甲社の発行済み株式総数9万株のうち、6万4905株は亡太郎に帰属することが客観的資料により明らかであったといえるものの、それ以外の2万5095株の帰属は不明であったというのであるから、亡丁税理士としては、適正な税務申告を遂行するに当たって、この2万5095株が相続財産を構成する可能性を考慮に入れた上、その帰属について必要な調査を行うべき義務があったということができる。しかし、相続税申告の当時甲社の妹主構成を明らかにした客観的資料が存在したことをうかがわせる証拠はない。したがって、必要な調査を尽くせば、客観的資料を手に入れることができたとも認められないことを考え合わせると亡丁税理士としては、6万4905株のみが亡太郎に帰属するという相続税申告書を提出したことについて、やむを得ない措置であったというべきである。
そうすると、本件相続税の申告に当たり、甲社の株式に関して亡丁が税理士として適正に税務申告をすべき義務に違反したとか、委任契約上の善管注意義務に違反したものとすることはできない。
以上のとおり、被控訴人に上記の損害が発生したことについては、被控訴人にも過失があったといえるから、一切の事情を損害の分担における衡平の観点から考慮して双方の過失の程度を勘案すると、3割の過失相殺をするのが相当である。(税法データベース編集室棚倉洋子)

JUSTAX第236号(平成25年3月10日号)/編集・発行東京税理士会データ通信協同組合・広報部


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