さまざまな分野の税と会計の問題についてのご相談承ります。

インドのIT企業

インドのIT企業

インドのIT企業に対する支払201304

租税相談Q&A 2011年4月号掲載
第227回 インド企業に支払う技術的役務に関する対価と源泉徴収
租税相談員 牧野好孝

【質問】

甲社では、現在自社の業務管理システムを全面改訂するために、ソフトの自社開発を行っていますが、費用と時間の節減のために、インドのIT企業から技術支援を受けることになりました。技術支援は、開発後の保守及び改良のことも考慮して、当社の技術者等をインドに派遣して現地で受けることを中心にし、必要に応じてメール等でのアドバイスも受けることにしています。この技術支援の対価として3,000万円程度の予算を組んでいますが、実際の支払いの際には源泉徴収をしなければならないと聞きました。本当でしょうか。

【回答】

1 日本の所得税の規定

所得税法第161条(国内源泉所得)第2号では、「国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令で定めるものを行う者が受ける当該人的役務の提供に係る対価」を国内源泉所得として規定し、所得税法施行令第282条(人的役務の提供を主たる内容とする事業の範囲)第3号では「科学技術、経営管理その他の分野に関する専門的知識又は特別の技能を有する者の当該知識又は技術を活用して行う役務の提供を主たる内容とする事業」と規定していますので、甲社がインドIT企業から受ける技術指導等に関しインド企業に支払う対価は、人的役務提供事業の対価とされることになります。

しかしながら、第161条第2号の規定は、書出しが「国内において」となっていますので、(このような所得源泉地に関する規定の仕方を、「使用地主義」と呼んでいます。この「使用地主義」に対して、実際に支払いを行った者がどの国の者であるかを基準にして所得源泉地を決める方式を「債務者主義」と呼んでいます。) 甲社がインド企業に支払う対価は、国内源泉所得とはならないことになります。なぜなら、インド企業が甲社に対して行う技術指導等は、すべてインド国内において行われることになっているからです。

2 租税条約の規定と所得税法第162条の規定

所得税法第162条(租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得)では「日本国が締結した所得に対する租税に関する二重課税防止のための条約において国内源泉所得につき前条の規定と異なる定めがある場合には、その条約の適用を受ける者については、同条の規定にかかわらず、国内源泉所得は、その異なる定めがある限りにおいて、その条約に定めるところによる

この場合において、その条約が同法第2号から第12号までの規定に代わって国内源泉所得を定めているときは、この法律中これらの号に規定する事項に関する部分の適用については、その条約により国内源泉所得とされたものをもってこれに対応するこれらの号に掲げる国内源泉所得とみなす。」とし、所得源泉地に関する置換えを規定しています。

この第162条は、所得税法第161条の規定が「使用地主義」で規定されているものを、租税条約の規定が「使用地主義」でなく「債務者主義」で規定されている場合には、その所得源泉地の判断基準を「債務者主義」に置き換えることを意味しています。

したがって、第162条が適用される場合には、どこで役務提供が行われたかによって所得源泉地を判断するのではなく、訟がその対価を支払ったかによって所得源泉地を判断することになります。

3. 日本とインドとの所得に関する祖税条約の定め

日本とインドとの所得に関する租税条約では、第12条(使用料及び技術上の役務に対する料金)の第1で「一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる使用料及び技術上の役務に対する料金に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。」と規定し、第2で「その使用料及び技術上の役務に対する料金に対しては、これらが生じた締約国においても、当該締約国の法令に従って租税を課することができる」(後段省略)」とし、第4で「この条において、「技術上の役務に対する料金」とは、技術者その他の人員によって提供される役務を含む経営的若しくは技術的性質の役務又はコンサルタン卜の役務の対価としてのすべての支払金(支払者のその雇用する者に対する支払金及び第14条に定める独立の人的役務の対価としての個人に対する支払金を除く。)をいう。」と規定しています。

してみると、我が国の所得税法第161条第2号で規定している「人的役務提供事業」となる、このたびの甲社からインド1T企業に対する支払いは、この組税条約の第12条の規定に該当することになります。

また、第6では「使用料及び技術上の役務に対する料金は、その支払者が一方の締約国又は当該一方の締約聞の地方政府、地方公共団体若しくは居住者である場合には、当該方の締約国において生じたものとされる。」と規定して、所得源泉地の決め方に「債務者主義」を採るとしています。

したがって、所得税法第162条によって、租税条約の適用がされる者であるインドIT企業が受領する甲社からの対価は、所得源泉地の置換え(使用地主義」から「債務者主義」への変更)が行われて、日本国内源泉所得となります(日印租税条約では、「使用料及び技術上の役務に対する料金」として規定されていますが、我が国の所得税法では「人的役務提供事業」として規定されていますので、第161条第2号に規定されている「人的役務提供事業」として日本国内源泉所得となります。

4. 源泉徴収の実施

所得税法第212条(源泉徴収義務)の規定により、非居住者に対して国内源泉所得の支払いをする者は、第213条(徴収税額)に規定される税率により源泉徴収をしなければなりません。本件の場合は、甲社のインドIT企業に対する人的役務提供事業に関する対価の支払いとなりますので、所得税法上の源泉徴収税率は20%となります。
しかしながら、本件支払いは日印租税条約の適用があり、同条約第12条第2の後段で「その租税の額は、当該使用料又は技術上の役務に対する料金の受領者が当該使用料又は技術上の役務に対する料金の受益者である場合には、当該使用料又は技術上の役務に対する料金の額の10%を超えないものとする。」と規定していますので、限度税率は10%となります。

したがって、租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律第3条の2の規定により、所得税法の規定する20%ではなく、限度税率である10%で、甲社は、インド1T企業に対して本件支払いをする際に、源泉徴収をすることになります。

なお、租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令第2条(相手国居住者等配当等に係る所得税の軽減又は免除を受ける者の届出等)の規定により、インドIT企業は、印字上から支払いを受ける日の前日までに、「租税条約の届出番」を、甲社を経由して甲社の管轄税務署長に提出することになります。

5 インドIT企業の日本での法人税の確定申告

法人税法第138条(国内源泉所得)では、所得税法と同様に、「人的役務提供事業」を「使用地主義」により国内源泉所得として規定しており、第139条(租税条約に異なる定めがある場合の国内源泉所得)では同様に、「債務者主義」による所得源泉地の置換えを規定しています。

また、第141条(外国法人に係る各事業年度の所得に対する法人税の課税標準)では、国内における恒久的施設(PEの有無にかかわらず「人的役務提供事業」から生ずる所得に関しては、課税対象となると定めています。
したがって、インド1T企業が甲社から受領する技術指導の対価は、日本国内源泉所得となり、恒久的施設の有無にかかわらず、日本において申告納税をしなければなりません。
なお、その際には、甲社から対価を受領する際に源泉徴収される税額は、法人税額から控除することができます。源泉徴収は収入金額に対して行われるのに対し、法人税額は収入から原価及びその他の経費が控除された後の所得に対して課されますから、結果として、還付となるケースが大半です。

powered by QHM 6.0.2 haik
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional