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2023-08-23 同族会社に対する貸付金の回収可能性

2023-08-23 同族会社に対する貸付金の回収可能性

貸付金債権の評価/同族会社に対する貸付金の回収可能性
相続開始後に営業を休止し、解散した場合

被相続人の同族会社に対する貸付金債権の評価については、その会社が債務超過であっても相続開始時に経済的に破綻していない限り、評価減をすることは難しいようです。今回は、相続開始後、営業を休止し、解散した同族会社に対する貸付金債権の評価額について、0円か元本価額かが争われた判決をご紹介します。(令和3年10月22日青森地裁・棄却・控訴・TAINSコードZ 2 7 1ー13620)

く事案の概要>

被相続人亡甲(平成28年10月死亡)は、同人が代表取締役を務める同族会社A社(ホテル・レストラン業)に対する貸付金債権(本件貸付金債権)を有していました。
亡甲を相続した原告(亡甲の長男)は、本件貸付金債権について、財産評価基本通達(評価通達) 205 《貸付金債権等の元本価額の範囲》の定めにより時価が0円となることを前提にして相続税の申告をしましたが、処分行政庁が、評価通達204《貸付金債権の評価》の定めに基づき同請求権の時価を相続開始時の残額(3億7029万5000円)で評価した上で、更正処分等をしたことから、これらの取消しを求めて出訴しました。
なお、A社は、平成28年1 2月30日に営業を休止し、平成30年12月に解散、令和元年6月に清算が結了しています。

く裁判所の判断>

青森地裁では、次のとおり判断し、原告の請求を棄却しました。

相続開始時において、A社が破産手続開始決定等を受けていたという事実はない以上、A社に、評価通達205 (1)イないしホのいずれに該当する事由がないことは明らかである。また、原告は、相続開始時よりも前の平成28年10月5日に同年12月30日もってA社を休業する旨の取締役会決議(本件決議)がなされた旨主張しているが、本件決議は、同年12月30日をもって休業するというものにすぎず、A社は、相続開始時において、現に事業を継続していたものであるから、A社が、相続開始時において、「業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6ヶ月以上休業して」いたものということができないのは明らかであり、評価通達205 (1)へ に該当する事由もない。したがって、本件貸付金債権が、評価通達205 (1)に該当する債権であるとはいえない。


A社の負債や収支等の状況からすれば、A社が、相続開始時において、直ちに支払不能に陥るなどして事業継続が不可能となることが確実な状況にあったとはいえないのであって、実際に、A社は、相続開始時以降約2か月間にわたって、ホテノレ等への宿泊等を受け付けるなどして事業を継続し、この問、資金繰りが行き詰るなどして評価通達205(1)に定めるいずれかの事由が生じたわけではなく、倒産手続を利用せずに清算結了に至っていることからしても、A社が、相続開始時において経済的に破綻していたとまではいえないことが十分裏付けられるというべきである。


したがって、A社が、相続開始時において、経済的に破綻していることが客観的に明白であったということはできなし、から、本件貸付金債権について、評価通達205柱書の「その他その回収が不可能文は著しく困難であると見込まれる」事由があるということはできず、本件貸付金債権について評価通達205を適用して、本件貸付金債権の評価額を0円と評価することはできない。


また、相続開始時において、A社が直ちに支払不能に陥ることが確実な状況にあったとはいえないのであるから、本件貸付金債権の全額を返済できる見込みが必ずしも高くなかったとしても、そのことのみをもってA社が経済的に破綻しているのと同視し得るとはいえない。


よって、相続開始時における本件貸付金債権の評価に当たって、評価通達204を適用し、その時価額を3億7029万5000円と評価したことは適法である。

(税法データベース編集室依田孝子)
JUSTAX第361号(令和5年8月10日号)/編集・発行東京税理士会データ通信協同組合・広報部

財産評価通達204、205

財産評価基本通達 204 貸付金債権の評価
貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。
(1) 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額
(2) 貸付金債権等に係る利息(208《未収法定果実の評価》に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額

財産評価基本通達 205 貸付金債権等の元本価額の範囲
前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。

(1) 債務者について次に掲げる事実が発生している場合におけるその債務者に対して有する貸付金債権等の金額(その金額のうち、質権及び抵当権によって担保されている部分の金額を除く。)
イ 手形交換所(これに準ずる機関を含む。)において取引停止処分を受けたとき
ロ 会社更生法(平成14年法律第154号)の規定による更生手続開始の決定があったとき
ハ 民事再生法(平成11年法律第225号)の規定による再生手続開始の決定があったとき
ニ 会社法の規定による特別清算開始の命令があったとき
ホ 破産法(平成16年法律第75号)の規定による破産手続開始の決定があったとき
ヘ 業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき

(2) 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額
イ 弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額
ロ 年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額

(3) 当事者間の契約により債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおけるその債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額

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