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社員税理士の退職訴訟

社員税理士の退職訴訟

税理士事務所退職者に競業避止義務があるか?
この記事は、2012年10月の東京税理士会データ通信協同組合情報事業資料です。

会計事務所・税理士から退職税理士等への損害賠償請求

税理士事務所に勤務していた税理士が退職する際に、担当していた関与先が事務所との契約を解除したり、退職した税理士と新たに契約を結ぶことなどがありますが、今回は、これが訴訟にまで及んだ事例を紹介します(平成24年4月26日大阪地裁判決・棄却・Z999-0130) 。

1.事案の概要

本件は、会計帳簿の記帳及び決算に関する業務等を目的とする会社である原告会社とその代表者であり甲税理士事務所の屋号で税務代理等を業としている原告甲が、①原告会社を退職した被告乙税理士及び丁に対し、就業規則に違反し、違法に原告らと競業し、かつ、不正の利益を得る目的で営業秘密を使用したなどとして、履用契約における債務不履行ないし不法行為並びに不正競争防止法に基づき、②乙及び了の身元保記人である丙及び戊に対し、連帯して6090万円の損害賠償を求めた事案です。

2. 裁判所の判断

以下のとおり、原告らの請求を棄却しました。
① 被告乙及び丁は、原告らとの間で雇用契約を締結していたのであるから、雇用契約継続中、一定の競業禁止義務を負っているというべきである。もっとも、特段の競業禁止義務について合意するのでない限り、顧客に対し退職の挨拶をする際などにおいて、退職後の取引を依頼したとしても、そのこと自体が、常に、雇用契約継続期間中における競業禁止義務に違反するというわけではない。また、特段の合意のない限り、被告乙及び被告丁が退職した後、上記競業禁止義務を負うことはない。


② 仮に変更後の就業規則が乙及び丁に対して及ぶとすると、乙及び丁が担当顧客らに積極的に勧誘をしたか否かにかかわらず、担当顧客らと新たに契約を締結したこと自体により、就業規則に違反するものとして、原告らとの間の雇用契約に係る債務不履行が成立することになる。しかし、乙が原告らを退職したのは本件就業規則が制定される前であるから、少なくとも乙にはその効力が及ばないことは明らかである。また、本件就業規則には、退職後に担当顧客:らから従前の人間関係に基づき新たに契約を締結することを求められたような場合にも、これに応じることを禁止する条項があるが、税理士の資格を有する者に対しても課されるものであることや、期限の定めがないことも併せ考えると、従業員に対して過剰な制限を課すものというほかなく、丁が原告らを退職した当日に届出がされた本件就業規則が、合理的なものであるということはできない。


従業員が退職するに当たり、担当顧客らから新たに契約をするように申出を受けた場合に、それを拒絶したり、翻意を促したりしなければならない法的義務があるとまではいうことができないし、そのような申出を受けたことについて勤務先に開示する義務を当然に負うということもできない。

また、担当顧客らは、原告らとの契約を解除する意思を乙及び丁に伝えた後に、仮に原告らから翻意するように働きかけられたとしても、原告らとの契約を継続することはありえないと述べており、このことからすれば、乙及び丁が担当顧客らにおいて原告らとの契約を解除することについて原告らに報告しなかったことについて、仮に何らかの義務違反が成立するとしても、少なくとも原告らが主援する損害との間に因果関係があるということはできない。


④ なお念のため検討すると、本件では、乙及び丁が担当顧客らとの人的関係等を利用することを超えて、原告らの信用をおとしめるなどの不当な方法で営業活動を行ったことは認められない。また、乙及び了が不正の利益を得る目的で原告らの営業秘密を使用したとまでは認めることができず、むしろ、担当者と顧客らとの問の個人的信頒関係に依存する業務の性格から、担当顧客らが信頼関係のない原告らとの契約を維持することよりも個人的信頼関係の成立している乙及び丁が引き続き担当することを選択したと評価することが十分に可能な事案である。

(東京税理士会データ通信協同組合 税法データベース編集室)


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