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2023-01-23 取引相場のない株式/発行会社を介する三者間の定額売買

取引相場のない株式/発行会社を介する三者間の定額売買

今回ご紹介する判決は、A社の代表取締役である父が、所有するA社株式を取締役である長男に持たせたいと思い、顧問税理士の助言を受けて株式の移転を行ったところ、更正処分等を受けた事例です。
(令和4年2月14日東京地裁・棄却・TAINSコードZ888-2419)

<事案の概要>

原告A社は、顧問税理士の指導に基づき、原告父(代表取締役)及び訴外元取締役から、同社の株式を1株当たり1500円(額面の3倍)で取得した上で、原告長男(取締役)に当該株式を譲渡しました。

顧問税理士は、父と長男との聞にA社を介すれば、資本等取引として、みなし配当以外の課税関係は生じないものと考えていましたが、父には、みなし譲渡課税(所法59①三)が、長男には経済的利益(給与等)が認定され、A社は給与等の源泉徴収義務を負うとして納税告知処分を受けました。

<東京地裁の判断>

東京地裁は、資本等取引の概念は、法人税法上のものにとどまるし、発行会社が自己株式を取得した場合であっても、その相手方である個人からみれば、保有期間中の増加益を観念することができるとして、次のように判示し、原告らの請求を棄却しました。

1 みなし譲渡(所得税法59条1項)該当性
所得税基本通達59-6に規定する評価方法は、取引相場のない株式の客観的交換価値を算定する評価方法として一般的な合理性を有するものと認められる。

A社と父の取引の時における価額を当該評価方法により算定すると、l株当たり1万7577円になるところ、この金額をもって、所得税法59条1項所定の「その時における価額j と認めるのが相当である。そして、父は、その2分の1に満たない金額(1株当たり1500円)で株式を譲渡したのであるから、所得税法59条l項(みなし譲渡)の規定を適用したことをもって更正処分が違法なものということはできない。

2 経済的利益(給与等)該当性
A社と長男の取引の時において算定された金額と実際の対価の額(1株当たり1500円)との差額をもって「経済的利益の価額」と認めるのが相当である。

本件取引については、長男がA社の取締役としての地位に基づいてA社からその株式を取得したものと認められるから、それにより長男が享受した上記差額に相当する経済的な利益についても、その地位に基づく労務の対価として支給されたものと解するのが相当である。

そのため、この経済的な利益については、所得税法28条1項所定の「給与等」に該当するものと認められるから、同項の規定を適用したことをもって、更正処分(長男分)及び納税告知処分(A社分)が違法なものということはできない。

3 本件取引に係る意思表示が錯誤無効であるか否か
原告らの主張するような価額及び税負担についての錯誤があったことを裏付けるに足りる事情は見当たらない。

また、所得税などのように、課税の対象が私法上の行為それ自体ではなく、私法上の行為により生じた経済的成果である場合には、その原因となる私法上の行為が無効であったとしても、現にその経済的成果がその無効に起因して失われない限り、それに係る課税をすることは妨げられないものと解される。( 税法データベース編集室市里子瀬音子)

JUSTAX第354号(令和5年1月10日号)/編集・発行東京税理士会データ通信協同組合・広報部


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