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2017-05-17 同族会社に対する貸付金の相続評価

2017-05-17 同族会社に対する貸付金の相続評価


相続財産である貸付金債権の評価
同族会社に対する貸付金の回収可能性(評価通達205)
今回は、財産評価基本通達205に規定する「貸付金債権の元本価額の範囲」について争った最新の事例をご紹介します(平成28年1月22日福岡地裁・棄却2888ー2040)

く事案の概要>

原告らは、平成22年1月5日に死亡した母(被相続人)を相続し、亡母が相続開始時に同族会社A社に対して有していた貸付金債権の価額を1000万円と評価して相続税の申告をした。これに対して、税務署長は、貸付金債権の価額を4656万7883円(元本の価額)と評価し、更正処分等を行った。

本件は、原告らが、評価通達205柱書の「その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」は、同(1)ないし(3)の事由(手形交換所の取引停止処分等)と同視し得る事態に限定すべきではなく、A社の実質的価値を判断すべきであるから、貸付金債権の時価は零円に等しく、少なくとも1000万円を超える額とは評側できないと主張して、更正処分等の取消しを求めた事案である。

<福岡地裁の判断>

1 評価通達205の「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき』の意義

評価通達205は、貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において「次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」においては、それらの金額は元本の価額に算入しない旨定めている。

そして、「その他その回収が不可能文は著しく図難であると見込まれるとき」とは、 通達上、貸付金債権等の評価は、原則として元本の価額と利息の価額との合計額により(評価通達204) 、「次に掲げる金額に該当するとき」すなわち評価通達205 (l)ないし(3)に定める場合はその例外とされているとともに、上記文言が、「次に掲げる金額に該当するとき」 に続けて並列的に定められていることからすると、上記の「次に掲げる金額に該当するとき」と同視できる程度に債務者が経済的に破綻していることが客観的に明白であり、そのため、債権の回収の見込みがないか、又は著しく困難であると客観的に認められるときをいうものと解するのが相当である。

2 本件貸付金債権の評価

A社の業務内容・収支状況及び財務内容・信用力・貸付金債権の弁済状況・評価通達205 (1)ないし(3)の各事由と直接同視できる事由の有無についての検討を前提に、本件貸付金債権について評価するに、確かに、A社は、相続開始時、その経営状況が悪化していたものであるが、相続開始時の前後を通じて事業を継続し、毎年、経常損益の赤字額を大きく超える1億5000万円近くの売上げを計上していたものであって、A社の負債の大半は同族役員等からの返済時期の定めのない無利子の借入れによるものであったことからしても、原告らが主張するようにA社が経営破綻の状態にあったなどと認めることはできない。

したがって、「その回収が不可能文は著しく困難であると見込まれるとき」に該当するとはいえないから、評価通達204に基づき債権の元本による評価をすべきこととなる。そうすると、計上すべき利息が認められない本件貸付金債権の評価額は、元本の価額である4656万7883円となる。


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(税法データベース編集室市野瀬音子)

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