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2021-02-21 個人馬主事業の貸倒損失

2021-02-21 個人馬主事業の貸倒損失

競走馬の預託先である同族会社への貸付金

税法データベースには、貸倒損失を争点とする事例が数多く収録されています。今回は、個人馬主から同族会社への貸付金が、個人馬主事業における事業所得を得るために客観的に必要であったか否かを争った判決をご紹介します。(令和2年3月18日東京地裁・棄却・控訴・Z888-2342)

事案の概要

本件は、個人馬主として競走馬の保有の事業を営む原告が、原告が代表取締役を務めていたA社に対する貸付金につき、同社の清算結了により貸倒れが生じたとして、その損失の金額(3億5464万円余)を事業所得の金額の計算上、必要経費に算入して平成26年分の所得税等の確定申告をしたところ、市川税務署長から、本件貸付金は所得税法51条2項所定の事業の遂行上生じたものに該当しないとして更正処分等を受けた事案です。

裁判所の判断

東京地裁は、次のように判示して、原告の請求を棄却しました。
1
所得税法51条2項にいう「その事業の遂行上生じた」とは、当該事業所得等の基因となる事業と何らかの関連を有する全ての場合をいうものではなく、当該事業の業種、業態からみて当該事業所得等を得るために必要なものと客観的に認められる場合をいうものと解するのが相当である。

2
原告は、原告がA社と一体となってオーナーブリーダ一事業(馬主兼生産者事業)を営んでいた旨主張する。しかしながら、原告の個人馬主の事業とA社のブリーダ一事業との間には一定の相互依存関係があったことは認められるものの、そもそも原告とA社は飽くまで別人格であり、原告がA社と一体となって原告の主張するようなオーナーブリーダ一事業を営んでいたと認めることはできない。

これは、株式会社であるA社が、自ら馬を所有し、これを育成した上で、レースに勝つことをも目的とし、実際に競走馬を所有するなど、独自の計算において利益を追求していたのであって、原告所有の競走馬等を育成する事業のみを行っていたものではないことからも明らかである。

3
個人馬主事業を営む者がその所有する競走馬等の預託先に多額の貸付けをすることは、その事業の遂行上必要なものとは一般的には解し得ず、原告においてA社が経営する牧場で競走馬を育成するか、その他の牧場に預託するかは、何人馬主としての主観的判断に属するものというべきである。

また、原告はA社の役員(代表取締役)として、銀行から借入れをして利息を払うよりも、手元の資金でやりくりしたほうがよいと考えてA社に対する貸付けを行っていたものであり、本件貸付金は、専ら原告がA社の経営者の地位にあったことに基因するものと解するのが相当である。

4
これらの事情からすれば、本件貸付金は、原告がA社を維持するために、A社の経営者として行ってきたとみるのが相当であり、原告の個人馬主事業に係る事業所得を得るために客観的に必要であったということはできない。

5
したがって、本件貸付金は、所得税法51条2項所定の事業の遂行上生じた貸付金には該当しないから、その貸倒れにより損失が生じたとしても、その損失の金額は、原告の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されない。

(税法データベース編集室市野瀬賞チ)
JUSTAX第331号(令和3年2月10日号)/編集・発行東京税理士会データ通信協同組合・広報部


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